
「複数の不動産会社に同時に頼めるなら、そのほうが早く売れるのでは?」
一般媒介を選ぶ動機としてよく聞かれる考え方です。
ただし実際に複数社へ依頼したとき、不動産会社側で何が起きているかはあまり知られていません。

私はかつて不動産売却査定一括サイト運営会社で10年間、営業として関東の不動産会社1,000社以上に商談経験があります。
その現場で直接見聞きした実態をお伝えします。
「掲載は後回しでいい」が現場の本音
不動産ポータルサイトへの掲載には費用がかかります。
限られた広告予算の中で、専任物件と一般媒介物件のどちらを優先するかとなれば、答えは自然と決まります。
ある不動産会社の社長が「この物件一般媒介だから、別に掲載後回しでいいんだよ」とよく口にしていました。
他社のほうが仲介力が強いことを理由にポータルサイトへの掲載自体をしないと判断した会社も見てきました。買主への露出が下がれば、それだけ成約の機会も下がります。売主からは見えない部分で、こうした優先順位の差が生まれている印象です。
同じ物件が複数掲載されることへの否定的な見方
一般媒介で3社に依頼すれば、SUUMOやHOME’Sなどに同じ物件が3社分掲載されることがあります。
これは売主側には「露出が増える」と映るかもしれませんが、不動産会社側・買い手側からの見方は異なります。
専任物件を取り扱う不動産会社から「同じ物件が複数掲載されていると購入しようとしているお客さん視点でもわかりにくいのでは」と指摘を受けることがしばしばありました。
また買い手側の不動産会社からは「自分たちの物件掲載が少しでも上に表示されるようにしてほしい、表示を独占したい」という要望が多く、重複掲載への否定的な意識は業界内で共通している印象です。
複数社から同じ物件が掲載されている状態は、買い手から見て「売れ残り物件」と映るリスクもゼロではありません。
口頭の約束が崩れると一気に温度が下がる
一般媒介では、売主が途中で別の会社にも依頼することが制度上は可能です。
ただしそれが担当者の態度に影響することがあります。
口頭では専任物件として預かっていたにもかかわらず、売主が他の不動産会社にもポータルサイトへの広告掲載を依頼してしまったため、担当者の温度が露骨に下がったと話していた不動産会社の社長がいました。
書面で契約することはもちろん重要ですが、地方や郊外のエリアでは口約束が当たり前になっている不動産会社もあります。
売主側も先に知識をつけておくことで、不動産会社の意見を鵜吞みにせず「媒介契約書は結ばないのですか?」といった質問をすることでトラブル防止につながります。
一般媒介が向いているケース
一般媒介が有効に機能しないわけではありません。
以下の条件が揃う物件では、複数社に依頼することが売却スピードにプラスに働く場合があります。
- 駅徒歩5分以内など、需要が高く各社が積極的に動く物件
- 相場より割安な価格設定で早期売却を優先している
- 需要が高いにも関わらず高額物件で片手取引でも不動産会社に手数料が多く入る物件
- 複数社の対応を見比べてから絞り込む判断材料にしたい段階
需要が高い物件であれば、各社とも「早く決めたい」という動機が働くため、優先度の差が出にくくなります。
まとめ
一般媒介は複数社に依頼できる反面、各社の優先度が下がりやすく、ポータルサイトへの掲載が後回しになるケースが現場では実際に起きています。
また重複掲載への否定的な見方や、口頭の約束が崩れた際の温度変化など、制度上は問題なくても現場では影響が出る部分があります。
媒介契約の種類を決める前に、まず複数社の査定を受けて各社の対応を見比べることが判断の出発点になるかと思います。

